大人のぬりえ本ブームと、そのあと
2010年代半ばに書店の平台を占領した大人のぬりえ本。何が押し上げ、何が冷やしたのか。そして紙が抱えていた問題を、画面がどう外したのか。
2010年代の半ば、おおよそ2013年から2016年にかけて、大人向けのぬりえ本が書店の目立つ場所を占めていた時期があります。どこの店でも入口近くの平台に積まれ、色鉛筆の売り場が隣に作られ、贈り物の定番になりました。そして数年で、その平台は別の本に置き換わりました。何が起きていたのかは、いま画面でぬりえをする人にとっても意味のある話です。
何が押し上げたのか
数点の突出したイラスト集
きっかけになったのは、精緻な線画を集めた数点のイラスト集でした。子ども向けの塗り絵とは明確に違う、細かい植物や動物や建築の線画で、大人が手に取っても恥ずかしくない見た目だったことが大きい。ここで「大人のぬりえ」という棚が成立しました。
書店の平台という装置
一度売れ始めると、書店は目立つ場所に積みます。積まれると見えるので、また売れます。この循環は本という商品にとって非常に強く、ブームの規模を短期間で押し上げます。逆に言えば、平台から降りた瞬間に失速する構造でもあります。
完成品を見せる文化
同じ時期に、画像を共有する場が生活の一部になっていました。ぬりえはこれと相性が良い。完成したページは写真映えしますし、同じ線画を別の配色で塗ったものが並ぶと比較が楽しい。買った人が宣伝してくれる商品だったわけです。
出版側から見た作りやすさ
文章がなく、線画だけで、翻訳もほとんど不要で、一色刷りで、紙も高級でなくてよい。出版する側にとって、制作費と回転の割に良い商品でした。だから成功が見えた瞬間に、大量の追随が起きます。
なぜ冷えたのか
冷めた理由は、押し上げた理由の裏返しです。
- 作りやすいということは、誰でも作れるということでもあります。線の質が低い本、線が細すぎて塗れない本、単に画像を寄せ集めた本が短期間で大量に出ました。
- 題材が急速に似通いました。花と鳥と森と幾何学模様。棚の前に立っても違いが分からない状態になると、選ぶ理由がなくなります。
- 本は一度で消費されます。塗ったページはもう塗れません。同じ本を二冊買う人はいません。一冊終える前に飽きた人は、次の一冊も買いません。
- 紙そのものの不便もあります。裏写り、書き損じの取り返しのつかなさ、置き場所。ペンの種類によっては次のページが使えなくなります。
ここで具体的な販売部数や市場規模の数字を出す記事は多いのですが、出典をたどると数字が食い違います。確かめられないので、この記事では数字を書きません。書けるのは形だけです。数年で急に立ち上がり、追随が飽和させ、平台から降りて、定番の一角に落ち着いた。
残ったもの
大事なのは、ブームが終わったことと形式が死んだことは別だという点です。大人が模様を塗るという行為への需要は消えていません。移った先が画面だった、というだけです。
画面に移ると、紙の弱点がそのまま消えます。裏写りはありません。ページは何度でも塗り直せます。置き場所は要りません。色鉛筆を買い足す必要も、削る必要もありません。そして、紙では現実的に扱えなかった密度の絵が扱えるようになりました。髪の毛ほどの幅の領域は、色鉛筆では塗り分けられませんが、拡大鏡があれば指で塗れます。
失ったものもあります。塗り上がった紙が手元に残ること、鉛筆の芯が紙にのる感触、机の上に本を広げて座る時間の質。これは画面では再現できません。ブームの当時にぬりえ本を買った理由がそこにあったのなら、いまも紙のほうが正解です。
ブームが残した教訓
いくつかは、いまアプリを選ぶときにそのまま使えます。
- 線画の質が体験のほぼすべてを決める。粗い線で埋め尽くされた本が売れなかったのと同じで、領域の切り方が雑な絵は塗っていて楽しくありません。
- 密度が高ければ良いわけではない。細すぎて塗れない線画は当時も不評でした。画面でも同じで、指で押せない大きさの領域は、拡大鏡なしでは苦行になります。
- 同質化は飽きを呼ぶ。題材と配色に幅があるかどうかは、長く使えるかどうかに直結します。
- 一度で消費されるかどうか。紙の本の弱点はここでしたが、画面では塗り直しができ、進み具合は端末に保存され、置いたところから再開できます。
Numbrush の図柄が曼荼羅や薔薇窓、幾何学模様に寄っているのは、この教訓に沿った選択です。模様は密度を上げても構図が破綻せず、配色の自由度が高く、拡大したときに見て面白い。1枚につき12色というのも、絵の陰影がつながるだけの数がありつつ、ある一色を探す作業が苦行にならない範囲に収めた結果です。
紙と画面、どちらを選ぶか
判断の材料はそれほど多くありません。完成した物が手元に残ってほしいなら紙です。移動中の十五分に使いたいなら画面です。細かい模様をきちんと塗り分けたいなら画面のほうが有利で、これは腕の問題ではなく道具の問題です。配色を自分で決めたいなら、番号のない白地の線画——紙でも画面でも——のほうが向いています。
よくある質問
大人のぬりえ本のブームはいつごろですか
おおよそ2013年から2016年にかけて、書店の平台を占めていた時期です。数点の精緻なイラスト集がきっかけになり、追随が大量に出て、数年で落ち着きました。具体的な販売部数は出典によって食い違うので、この記事では数字を挙げていません。
なぜ人気が落ちたのですか
粗製濫造で品質の幅が広がったこと、題材が急速に似通ったこと、そして本は一度塗ると再利用できないことが重なりました。裏写りや置き場所といった紙そのものの不便も効いています。
アプリは紙のぬりえ本より良いですか
良し悪しではなく別物です。裏写りがなく、塗り直せて、置き場所が要らず、紙では扱えない密度の絵が塗れます。一方で完成しても手元に物は残らず、鉛筆の感触もありません。
当時のような細かい線画はアプリでも塗れますか
塗れますし、むしろ画面のほうが向いています。細い領域は色鉛筆では塗り分けられませんが、拡大してタップする形式なら扱えます。長押しで出る拡大鏡があれば、指で隠れてしまう小さな領域も狙えます。
実際のキャンバスで試す
Numbrush は大人のための数字ぬりえです。曼荼羅、バラ窓、幾何学模様。1枚につき12色、狭いところには拡大鏡、押し間違えても失うものはありません。無料、オフライン、広告なし、アカウントなし。